こんにちは。編集長の木原です。退職の意思を伝えた時、もし上司から「君が必要なんだ」「待遇を改善するから、考え直してくれないか」と、熱心な引き止めにあったら、あなたはどう感じますか?「自分は、こんなにも必要とされていたのか」と、心が揺れてしまうかもしれません。
私自身、管理職時代に何度も部下を引き止めようとした経験があります。だからこそ、その裏側にある企業の『本音』と、引き止めに応じることが、いかにあなたのキャリアにとって危険な選択であるかをお話ししなければなりません。
この記事では、甘い言葉の裏に隠された、退職引き止めのリアルな実態と、あなたの未来を守るための賢明な対処法を、Q&A形式で解説します。
Q1. なぜ、会社は私を引き止めるのですか?
もちろん、あなたへの評価が高く、純粋に「辞めてほしくない」と思っているケースがほとんどです。しかし、それと同時に、企業側には極めて現実的な、いくつかの『計算』も働いています。
一つは『採用・育成コスト』の問題です。新たに一人を採用し、戦力になるまで育てるには、莫大な時間と費用がかかります。あなたに少し給与を上乗せしてでも、残ってもらった方が、会社にとっては遥かに低コストなのです。もう一つは、管理職である上司自身の『評価』の問題。部下の退職は、上司のマネジメント能力不足と見なされかねません。彼の立場を守るため、という側面もゼロではないのです。
あなたの価値を認めているのは事実。しかし、その背景には、こうした企業の都合も存在することを、冷静に理解しておく必要があります。
【深掘り解説】引き止めの種類別・上司の本音と対処法
一口に「引き止め」と言っても、その言葉の裏にある上司の本音は様々です。代表的な3つのパターンと、それぞれに対する賢明な対処法を知っておきましょう。
パターン1:「給与・待遇を改善する」という条件提示型
これは最も分かりやすい引き止めです。「君の評価を見直す。だから残ってくれ」というメッセージの裏には、「この条件なら、彼の不満は解消できるだろう」という計算があります。しかし、ここで考えてみてください。なぜ、あなたが辞めると言うまで、その正当な評価がなされなかったのでしょうか。一度上げた給与が、将来の昇給にどう影響するかも不透明です。
パターン2:「後任が決まるまで、あと半年だけ」という時間稼ぎ型
これは、上司が自身の責任を回避したいがための、時間稼ぎである可能性が高いと言えます。この言葉に情で応じてしまうと、半年後、一年後と、ずるずると退職が先延ばしにされ、あなたの転職市場での価値が最も高い時期を逃してしまう危険性があります。
パターン3:「君がいなくなったら、このプロジェクトはどうなるんだ」という罪悪感に訴える感情型
責任感の強いあなたほど、この言葉に心を痛めるかもしれません。しかし、一人の社員が辞めたことで立ち行かなくなるようなプロジェクトは、そもそも組織として問題を抱えています。引継ぎを完璧に行うことが、あなたの最後の責任です。それ以上の責任を、あなたが背負う必要は一切ありません。
Q2. 引き止めに応じると、どんな未来が待っていますか?
では、もしあなたが「そこまで言うなら…」と引き止めに応じ、会社に残った場合、どうなるでしょうか。残念ながら、その先には厳しい現実が待っているケースがほとんどです。
一度「辞める」と言ったあなたは、組織の中では『要注意人物』のレッテルを貼られてしまいます。「どうせまたいつか辞めるだろう」と思われ、重要なプロジェクトや、将来の昇進ルートから、静かに外されていく。そんな悲劇を、私は何度も見てきました。そして何より、あなたが最初に「辞めたい」と思った、その根本的な問題(仕事内容、企業文化など)は、何も解決していないのです。
引き止めは、問題の先送りにすぎません。あなたの貴重な時間を、停滞の中で過ごすことになってしまうリスクが非常に高いのです。
Q3. どうすれば、円満に断ることができますか?
強い引き止めにあった時、最も大切なのは『感謝』と『揺るがない決意』を、セットで伝えることです。感情的になったり、相手を論破しようとしたりしてはいけません。誠実な態度で、しかし毅然と、あなたの意思を伝えましょう。
以下は、私が部下にこう言われたら「それならば、応援するしかない」と感じた、理想的な断り方です。
『身に余るお言葉、本当にありがとうございます。〇〇さん(上司の名前)の下で働けたこと、心から感謝しております。しかし、今回の決断は、私が自分のキャリアについて長い時間考え抜いて出した結論です。その決意は、変わりません。会社にご迷惑をおかけしないよう、引継ぎは完璧に行いますので、どうか私の新しい挑戦を応援していただけないでしょうか』
木原 雄一
あなたのキャリアの主導権は、あなたにある
退職の引き止めは、あなたの価値が認められている証拠です。その事実に自信を持ちつつも、決してその場の感情で未来を決めないでください。
あなたのキャリアのハンドルを握っているのは、会社や上司ではありません。あなた自身です。一度前に進めると決めたのなら、その決断を信じて、新しい道へと踏み出してください。

監修者コメント:編集長が語る『引き止めのリアル』は、私がこれまで何度も転職者の方々から聞いてきた後悔の声と、悲しいほどに一致します。一時的な待遇改善に心が揺らぎ、会社に残ったものの、結局1年以内に再度ご相談に来られるケースが本当に多いのです。この記事は、あなたの未来を守るための、非常に重要なお守りになるでしょう。