こんにちは。ライターの伊藤誠です。32歳、営業一筋。妻と3歳になる息子がいて、仕事の成績も悪くない。傍から見れば、順風満帆な人生だったかもしれません。でも、僕の心の中では、ずっと焦りのような感情が渦巻いていました。
「このままで、俺のキャリアは大丈夫なのか?」毎日のように繰り返されるルート営業。身につくのは、この会社でしか通用しない製品知識と、社内調整のスキルばかり。市場価値という言葉を知り、自分の値段がどんどん下がっていくような恐怖を感じていました。
これは、そんな崖っぷちの30代営業マンだった僕が、家族の理解を得て、未経験のWebマーケティング業界へ飛び込み、新しいキャリアを掴むまでの、決してスマートではなかった物語です。
第一章:深夜のリビングと、妻の涙
Webマーケティングという仕事を知ったのは、偶然でした。顧客の課題をデータで分析し、戦略を立て、実行し、改善する。なんて面白そうなんだ。僕が営業で感じていた「もっと顧客の根本的な課題解決がしたい」という想いを、実現できる場所かもしれない。直感的にそう思いました。
しかし、現実は甘くありません。32歳、未経験。転職サイトに登録しても、書類選考で面白いように落とされる日々。深夜、リビングで一人ため息をつく僕に、妻が静かに言いました。「あなた、最近楽しそうじゃないね」と。僕の焦りが、一番大切な家族を不安にさせていたのです。その夜、僕は初めて妻にすべてを打ち明けました。
『もし、挑戦しないで後悔するくらいなら、挑戦してほしい。収入が一時的に下がっても、大丈夫。私も働くから』妻は、涙を浮かべながらそう言ってくれました。この言葉が、僕の覚悟を決めさせました。もう、自分に嘘はつけない。家族のためにも、本気で未来を変えよう、と。
伊藤 誠
第二章:「営業スキル」という名の、最強の武器
覚悟を決めた僕は、戦略を練り直しました。未経験であることは変えられない。ならば、今持っている武器で勝負するしかない。僕の武器は、10年間で培った『営業スキル』です。
僕は、自分の営業経験を徹底的に分解しました。「顧客の課題をヒアリングする力」「課題解決のための企画提案力」「粘り強い交渉力」。これらはすべて、Webマーケティングにおける「ユーザー理解」「施策立案」「効果改善」に直結する、極めて重要な『ポータブルスキル』ではないか。そう気づいた瞬間、道が開けました。
職務経歴書を、ただの経歴の羅列から、「私の営業経験は、Webマーケターとしてこのように貢献できる」という『企画書』に書き換えたのです。
第三章:面接官の心を動かした、たった一つの質問
書類選考を通過し始めた僕に、最後の壁として立ちはだかったのが面接でした。「なぜ、今からわざわざ未経験の業界に?」面接官は、僕の本気度を試していました。
数々の面接を経て、僕は自分なりの答えを見つけました。最後の逆質問の時間、僕はこう尋ねました。「もし私を採用していただけたなら、前職での営業経験で培った顧客理解の視点を、どのように活かせば、最短でチームに貢献できるとお考えですか?」と。
受け身で教えてもらうのではなく、自分の武器をどう活かすか、主体的に問う。この質問をした時、面接官の目の色が変わったのを、今でもはっきりと覚えています。
そして、今。
Webマーケターに転職して3年。年収は、営業時代のピークを既に超えました。でも、それ以上に嬉しいのは、毎日新しい知識を学び、自分の手でサービスを動かしているという実感です。そして何より、家に帰った時の僕の顔が、以前よりずっと明るくなったと、妻が笑ってくれます。
30代の未経験転職は、決して楽な道ではありません。でも、不可能でもありません。大切なのは、過去の経験を嘆くのではなく、その経験の中に眠る『価値』を見つけ出し、未来の言葉で語ることです。あなたのキャリアは、あなたが思っているよりも、ずっと豊かです。

監修者コメント:伊藤さんの体験談は、30代のキャリアチェンジにおける成功の本質を見事に示しています。私たちが面接で見るのは、単なる職歴ではありません。その経験から何を学び、それをどう次のステージで活かそうとしているか、という『再現性のある思考力』です。彼の言う『企画書』として職務経歴書を書き換える視点は、全ての転職希望者にとって必見と言えるでしょう。